野球トレーニングギア|インタビュー

前田健 インタビュー。現状の曖昧な『感覚的技術論』から新たなステージへ。『動作の仕組み』が分かれば、野球はもっと上手くなる。

01.現在の野球界の問題点

今なお根付く、感覚やイメージを伝えるだけの技術論。明確な定義がある技術用語は、実はなにひとつない。

そもそも野球の動作の仕組みを理解することが大切なのは当たり前の話で、自動車整備士が車の仕組みや構造を理解せずに、憶測で修理をしないのと同じことです。仕組みが分かるから原因が分かり、原因が手に取るように分かるから的確な対処ができるのです。
例えば、野球界では「開いてはダメ」とよく言われますが、なぜ「開き」、どうすれば「開かない」のか、という仕組みまではほとんど理解されていません。それどころか、「開き」はひとつの言葉でありながらいくつもの動作に使われていて、そもそも「開き」とは具体的にどういうものか、「回転」との違いは何か、ということさえ曖昧なまま使われています。この他にも、「壁」、「タメ」、「ヘッドを立てる」、「ひじを前に出す」など、現状の野球界の技術用語はすべて選手の感覚やイメージを表現した曖昧なものしかありません。これでは「何が正しいのか分からない」という声も、誤解による間違った練習もなくなりません。
確実に上手くなるための唯一の方法は『仕組みを知る』ということです。野球界は、これまでの曖昧な『感覚的技術論』から、具体性のある『動作の仕組みに基づく技術論』に移り変わっていく必要があるでしょう。向上心のある選手は正しい理解と努力でどんどん上手くなることができます。

02.動作改善指導とは

動作の仕組みをきちんと理解させた上で、ドリルによって効果的な動作を体感させ、定着に導く。

ほとんどの選手は技術について曖昧な知識しかなく、「何が正しいか分からない」状態にあります。また、現状の感覚やイメージを表現した技術用語の中には、言葉通りの動作だと悪くしかならないものさえあるので、やるべき動作を誤解して悪い動作を意識的に行おうとしている場合もあります。そのため、動作改善の手順としてまずはじめに行うことは、効果的な体の使い方とその理由、その動作が実現する仕組みを説明し「なるほど!」と疑問や誤解を解消することです。その上で、現状の問題点について効果的な動作との違いを示し、その動作によって起こりやすいことが実際の結果の傾向と一致することや、今何故その動作が起こってしまっているのか原因を説明して、「だからか!」と、今後の上達への道筋がはっきりと見えた状態にします。
そして練習ドリルです。現状の問題動作には必ず原因があるので、意識するだけでは簡単には変わりません。そこで、部分ごとに効果的な動作を引き出しやすいように工夫した練習を行わせ、その中での動作を修正し、効果的な動作を一度体感させるのです。そして、一度できたものが何度でもできるように反復し、定着させていきます。
これが動作改善指導の考え方です。これだけ動作の仕組みも問題点の原因もすべてが見えて練習するのですから、1時間もあれば見違えるようになるのは当たり前のことで、技術練習とは本来こういうものなのです。仮にすぐにはできなくても、確実に上手くなる方向だけに向かう内容であることが大切で、そのためには『動作の仕組みを知る』ということが必要なのです。
動作改善指導の中で習得を目指すものは、万人に共通する効果的な体の使い方の原理原則の部分です。そこに小学生もプロも違いはありません。原理原則に則って指導をしても、骨格や身体機能の違いから勝手に個性は現れます。原理原則の精度が限りなく高く、その使い切りのレベルが高いのが一流と呼ばれる選手なのです。

03.トレーニング器具の必要性と取り組み時期について

若いうちは基礎体力よりも基礎技術づくりの方が大切。その過程が吸収力を高め、対応力の高い選手を育む。

プロの一流選手ともなると言葉で説明しただけでできてしまうほど、その吸収力は並外れていますが、アマチュア選手の場合、年齢が下がるほど自分の体を自在にコントロールできない傾向にあるので、動作改善における反復練習は必要不可欠です。そして、その改善練習を積み重ねていく過程が次第に頭と体を一致させ、指導に対する吸収力を高めることになるのです。
例えばこういう選手がいます。小さい頃からチームの中では抜きん出て、フォームに関して何も言われず、深く考えずにずっとやってきている天然素材の選手。こういう選手はそのままプロまで突き抜けてしまえばいいのですが、高校くらいで急に課題に気付きフォームを変えようとしても苦労します。自分の体の内部を見つめる訓練をこれまでしてこなかったので体が対応できないのです。
つまり、指導に対する吸収力を育もうと思えば、動作について訓練を開始するのは早いほどいいのです。もちろん、小学校低学年くらいであれば、多くの課題を克服するのにそれなりの時間がかかります。しかし、課題に向き合ってコツコツと取り組む訓練が、論理的な思考力を育て、体の吸収力を育てるのです。
また、小学生高学年から中学1〜2年生は、剥離骨折などひじを傷めやすい時期にあり、その時期にひじを痛めないことが、それ以降にひじを痛めないために最も大切であることが分かっています。そのため、小学生高学年までに正しいフォームを身に付けたいのです。野球ではまず『基礎体力づくり』が大切だと言われますが、それよりも『基礎技術づくり』の方が大切で、パワーや戦術は高校以降、身に付ければいいことです。
今回私が開発・監修に携わったトレーニング器具は、そうした『基礎技術づくり』に有効であり、一人で反復練習に取り組めるものがほとんどです。また、アイテムそれぞれに意図と使い方があり、それを分かった上で利用すれば長く使えるものばかりです。それを使う側も使わせる側もきちんと理解した上で、野球の動作改善に役立ててもらえれば嬉しいですね。

前田 健(まえだけん)

1968年生まれ埼玉県出身
城西大附属川越高校、筑波大学で野球部に所属。筑波大、筑波大大学院で体力トレーニング論を専攻後、社会人野球の名門・日本石油(現JX-ENEOS)で9年間コンディショニングコーチを務める。
2003年に阪神タイガース・星野仙一監督から入団を要請され、一軍トレーニングコーチに就任。「野球の動き作りと身体作りの専門家」として選手を改革、同年の18年ぶりのリーグ優勝に貢献した。
2005年、野球界における自分自身の存在価値は、野球の技術を具体的な動作の仕組みとして、誰よりも深 く正確に理解している、その「動作分析力」にこそあると気づき、兵庫県芦屋市に野球の動作改善専門の個人コーチング施設「BCS Baseball Performance」を開設。プロ、アマ問わず野球選手のパフォーマンス向上をサポートする傍ら、執筆活動、セミナー活動を精力的にこなし、「動作の仕組みに基づく技術論」「動作の仕組みに基づく指導法」という本来当たり前のことを野球界に普及させるべく活動している。


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